2015年6月28日発行の刀剣乱舞本『hope』(蛍丸×山姥切国広)ができるまでの流れを思い出して記事にしました。
先日「小説執筆まわりのことについて聞きたい」とのご要望をいただいたので、当時をなつかしみつつまとめてみました。
あらすじなどを記載する関係上、本のネタバレ全開です。
※刀解ネタを含む本につき、苦手な方はご注意ください
【刀剣乱舞】「【6/28閃華の刻】ほたんば新刊サンプル【小説】」イラスト/柑子 [pixiv]
プロットを作る / 4月中旬
ネタが浮かんだ勢いでプロットのようなものを作ります。
そのときのテンションによって違いますが今回はあらすじ形式で作りました。
こんな本にしたい
-
暗い話だけどラストは前向き
- サクッと軽く読める長さの話にしたい
デイリー任務で2つ同時に鍛刀開始したら先に鍛刀時間1:30の山姥切国広がで来たけど、
すでにこの本丸には初期刀にして近侍の山姥切国広がいるため、おそらく倉庫送りか刀解になるだろう
(この本の審神者は「基本的に二振目の刀は手元に置かない」という設定)、
おまえ最期にしておきたいことあるか? となり、
「隣で打たれてる刀ができるまでここにいさせてくれ」
と近侍山姥切国広に頼む二口目山姥切国広。
(この次点では隣で打たれてる刀が太刀か大太刀かすらわかっていないが、二口目山姥切国広は祈りをこめて「大太刀であってほしい」と思う)
その後目の前で生まれたこの本丸最初の大太刀である蛍丸が、
これから消える運命にある二口目山姥切国広には最初で最後の希望のように見えたよ、
というお話。
上記は当時書いたプロット、ほぼ原文です。
人には見せないものなので、自分があとから読み返して内容把握できればいいかなくらいの気持ちでラフに書きます。
※ちなみにこの本は1冊目の刀剣本『恋に似ている』の入稿締切直前にネタが浮かんだため、ネタ出しから本文を書きはじめるまでに若干タイムラグがあります。稀によくあります。
プロットを分解する / 4月下旬
プロットをざっくりとわけます。
長編だと10以上の章にわけることもありますが、
今回は短編なので起承転結の4つでいきます。
先ほどのプロットを分解すると、
- 起:デイリー任務で2つ同時に鍛刀開始したら、先に山姥切国広(二口目)が完成
- 承:これから自分がたどる運命を近侍に聞かされ「隣で打たれてる刀ができるまでここにいさせてくれ」と近侍に頼む二口目山姥切国広
- 転:彼らの目の前で本丸最初の大太刀である蛍丸が完成
- 結:蛍丸にこの本丸の希望を託し、二口目山姥切国広、倉庫で刀に戻され最期のときが来るのを待つ
こんな感じになりました。
シンプルなお話なので、今回は上記にプラスし、エピローグを1本入れることにしました。
ほとんどの場合エピローグはページ調整をかねつつノープランで書きます。
ページ数の予測を立てる / 4月下旬
表紙の背幅を計算するため、総ページ数の予測を立てます。
本文組などによっても違いますが、
わたしの場合はだいたい1P(A5/2段組)につき1000字前後。
これを基準とし、
- A:起承転結(または章)のいずれかをざっくり書いてみて、その文量から全体を計算
- B:なんとなく勘で推測
以上のどちらかで予測を立てます。
短編の場合はそこまで上下しませんが、長編だと予測から20ページ以上増えるなんてこともざらなのであくまで目安です。
とくに場面の切り替わりが頻発したり登場人物の多くなる話の場合はある程度多めに見積もっておくと安心です。
今回は短編なのでAで計算。
ひとまず書いてみた起+承が約4000字(A5本換算で4ページ前後)。
プロットとにらめっこしつつどのシーンをより多く書きたいか考え、
今回は 起:承:転:結:エピローグ の割合がだいたい 1:2:3:2:2 くらいになるだろうと推測。
以上の計算からおそらく本文は14~18ページ、
その他ページも合わせると表紙込20~28ページになるだろうと予測を立てました。
本の仕様を決める / 5月初旬
本文用紙によって背幅も変わるので、本の仕様は早めに決めておきます。
今回は表紙を二色刷とフルカラーとで迷った結果、以下のようになりました。
- A5サイズ / 20~28P / 表紙フルカラー+クリアPP
- 本文用紙:すばる
- 遊び紙:クラシコトレーシング白
- (背表紙2mm前後)
クリーム色の本文用紙大好き人間ですが今回は白味が欲しかったのですばるに。
すばるはソフトな白地で読みやすく厚みもあるので、短編本のときは候補に挙がることの多い紙です。
表紙の依頼をする / 4月中旬+5月初旬
ページ数の予測がついたら表紙作成です。
ふだんは自分で作ることが多いのですが、この本はぶんちき(kwkm)さんにイラストおよびデザインをお願いしました。
※刀剣1冊目も彼女に依頼していますが文字入れなどは当方でおこなっています
先述のとおり1冊目の原稿中にこの本のネタが湧き出てしまったこともあり、ぶんちき氏には1冊目入稿後(4月中旬)に脱稿報告を兼ねて、
- (都合が合えば)次もお願いしたいこと
- 6月28日のイベント合わせであること
- 表紙の仕様(当初は黄×黒の2色刷予定だった)
- 原稿〆切日の予定
などを仮依頼として伝えていました。
今回(5月初旬に)送ったのは本依頼メールです。
以上を含めた表紙依頼についての流れは、長くなるため別記事にまとめました。
rokuhare.hateblo.jp
本文を書く / 5月初旬~
表紙依頼を終えたらいよいよ本文を書きはじめます。
わたしが2015年当時使っていたのはおもに以下。
気の向くままにガシガシと、テキストエディタで書いたりInDesignに直書きしたりと好きなように書きます。
プロットはあくまでも「そういう話にする予定」くらいのつもりで、あまり気にしすぎずその場のノリ重視で書きます。
※ただしページ数大幅増加の原因となるため、〆切に余裕のないときはおとなしくプロットどおりに書いたほうが無難です。
わたしはそれでなんども地獄を見ました。
執筆速度は、わたしの場合、平均して1時間1000字くらい。
3000字を超えることもあれば50字もいかないこともあります。
※上記「ページ数の予測を立てる」の時点で、このあたりを考慮した上で〆切までにどれだけ書けるかを計算しています。
厳しいと判断したらそのネタは次回に回します。
計算した結果、今回の本は週末集中作業のみでも大丈夫そうでした。
このときは5月中の土日を使い、だいたい1ヶ月で本文の9割ほどを書き終えました。
余談ですがかの西尾維新先生は1日2万字だそうです。
修羅場のたびにわたしの心の西尾維新先生を奮い立たせているのは秘密です。
本文レイアウトを決める / 5月初旬~
ある程度書いたところで本文レイアウトを決めておきます。
わたしはA5本の場合、
- 段組:25~27字 × 21~23行 2段組
- フォント:明朝系 12~13Q(8.5~9pt)
で本文を組むことが多いです。
刀剣乱舞は難しい漢字が多い関係でルビを振れるだけの行間がほしいため、以下のように設定しました。
- 段組:27字 × 21行 2段組
- フォント:リュウミンR+約物のみヒラギノ明朝W3 12.2Q(約8.5pt)
本文データはInDesignで作ります。
InDesignの設定画面。
ヒラギノの小さい「」(カギ括弧)が好きなので今回は合成フォントにしています。
ふだんは既存フォントをそのまま使うことが多いです。
スタイルを作ったら書きかけの本文を流しこみ、行間や余白などを微調整をします。
見開きにしたところ。
今になって見るともう少し地側の余白を削ってもよかったかも。
あくまで目安ですが、
- 画数の多い漢字を多用する
- ルビや圏点などが頻繁に入る
- 改行が少ない
- フォントが太い
上記要素を2つ以上含む文章の場合は、
ふだんより行数を少なめ or 行間に余裕をもたせる と読みやすくなる……ような気がします。
モニタで見るだけじゃわからないときは、
A5サイズの紙に1ページずつプリントアウトしたあと、ノド側5mmくらいの位置をホチキスや両面テープなどで止めてみると製本後のイメージがつかみやすくなります。
こちらは2016年冬に出したスラダン本『翔陽カップへようこそ!』のときに作った見本。
見開き2ページをホチキスで止め合わせています。
余談ですがプロット横目にアドリブ全開で書いたら地獄を見たのはこの本でした。
40P増えました。
本文以外のページを作る / 6月中旬
本文がほぼ書き終わり、この先大きくは増減しないだろうという段階まで来たら本文以外のページを作ります。
A5本の場合、表紙を含め8の倍数+4になるよう調整するのがベストなのですが、この本は本文が15ページ。
表紙(4ページ)を含め20ページだと厳しく、28ページだと多すぎるため、あいだを取って24ページにしました。
今回は以下の5つを作りました。
ページ数調整のため、24Pの本としては少し多めになっています。
すでにぶんちき氏による表紙データが6月初旬にあがっていたので、許可を取った上で背景パーツを使わせていただきました。
扉(左)と奥付(右)。
ノド側の下に小さく見えるのはノンブルです。
奥付はあとがきも兼ねています。
あとがき好きなのでいつも紙面が尽きるまで書きます。
本文を見直す / 6月中旬
すべて書き終えたら、プリントアウトして確認します。
モニタで見るだけじゃ気づかなかったことも目に入るようになるので個人的にはプリントアウト必須です。
(本文を書いている最中もときどきプリントアウトして読み返したりします)
一人称や時系列、整合性や表記揺れなどを気にかけつつ、赤ペンでガンガン直していきます。
こちらも『 翔陽カップへようこそ! 』のもの。
てきとうなA5サイズの紙に1ページずつプリントアウト。
修正箇所があったページにはノンブルにマルをつけています。
大量の修正がある際は大判のポストイットの上に書き込むことも。
修正が終わったら、本文は完成です。
入稿用データを作る / 6月下旬(入稿前日)
利用予定の印刷所のマニュアルに従い、入稿用データを作成します。
今回は日光企画さんだったので、本文はPDF出力し、表紙はレイヤー統合してPSD形式に。
データに破損がないことを確認してからまとめてCD-Rに焼きます。
直接入稿用に、本文と表紙の出力見本も用意しました。
入稿する / 6月下旬
印刷所の〆切当日に日光企画お茶の水店に行き、入稿しました。
オンライン入稿が主流になりつつある今となっては敷居が高く感じられることもある直接入稿ですが、その場でデータ確認してもらえて安心なのと、データによっては対面ならではのアドバイスをいただけることもあるのでお使いの印刷所が近くにある場合はぜひ!
完成 / 6月28日
無事にイベント当日、スペースの机の下に搬入されていました。
おしまい
以上です。
この本は表紙依頼をする関係でわたしにしてはかなり早いうちから準備しましたが、ふだんは2週間前後だったり、はたまた半年以上かかったりとまちまちです。
わたしは物書きのプロではなく、のんびりゆっくり薄い本を量産してきた腐女子文字書きにすぎません。
もっと効率のいい方法もたくさんあると思います。
というわけでこれはあくまで個人の、この本はこうやって作ったという一例として流し読んでいただけたら幸いです……!
読んでくださりありがとうございました!