文字だらけの薄い本作るよ。

小説同人誌を作る上での試行錯誤を記録したもの。

iOSテキストエディタアプリ『縦式』で小説本文を組む【実用編】|実際に使ってみる

テキストエディタアプリ『縦式』で小説本文を組む、実用編です。
この記事では実際に使う上での設定や本文レイアウトについて書いています。

 

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『縦式』についての基本的な紹介基本編を参照してください。

 

 

 

※この記事では2019年9月16日時点の最新版である『縦式』ver.2.0.4を使用しています。

また、この記事はiOS12.0.4(iPad mini2)で使った際の感想です。
2019年9月20日に配信されたiOS13とは仕様が異なる可能性があります。

 

 

 

作例出典

記事内の作例には青空文庫 江戸川乱歩宮沢賢治の作品をお借りしています。(敬称略)

www.aozora.gr.jp

 

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各種設定について

『縦式』の設定には、大きくわけて

  • エディタ設定(新規ファイルの初期値)*1
  • テキスト設定(ファイルごとの固別設定)
  • 出力設定(出力用の設定)

があります。

 いずれも設定項目の内容自体はほぼ一緒なのですが、それぞれどこに適用されるかが違います。

 

エディタ設定

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エディタ設定は縦式アプリをひらいて最初の画面の、右上にあるこの歯車アイコンから。
ここでの設定が、新規テキストの初期設定に適用されます。

 

 

テキスト設定 

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テキスト設定は、ファイルを作成して編集画面に入ったあと、画面上部中央のファイル名のあたりをタップして出てくるメニューから。

ここでの設定はそのファイルでのみ適用されます。

ただし禁則処理などの一部設定は、出力設定にも適用されます。

 

 

出力設定

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出力設定は編集画面右上にあるこのアイコンから。
ここでの設定は出力時にのみ使われます。

 

 

 

『縦式』を使って本文を組む

では、さっそく本文を組んでみます。

先述したように『縦式』はアプリ内部処理が非常に優秀なため、どんな数値を入れてもきれいに組んでくれます。

基本的にはいつもご自身が使っている本文レイアウトの文字数や行数や余白設定などをそのまま使って大丈夫です。


それでも「いや、迷うわ」という方は、以下の設定値を参考にしてみてください。

 

おすすめ設定値

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出力設定画面。

注釈は「だいたいこの数値で作るとたぶん失敗しない」という目安です。

 

 

フォントサイズは、基本的には9pt
もう少し詰めこみたいなら8.5pt*2 

 

行間は、一般的に言われる理想値は二分四分(フォントサイズ×0.75倍)。
ただ、2段組の同人誌だとそこまで確保するのが難しいことも多いので、文体やルビの頻度などを見た上でフォントサイズ×0.6~0.7倍くらいを目安に調整するのがいいかも。

 

文字数行数はお好みで。
とりあえずフォントサイズと天地左右の余白を決めてから、どのくらい詰められるか試していくのでもいいと思います。

 


その他、おすすめのエディタ設定としては、

  • 禁則処理はオン
  • 句読点のぶら下がりはオン
  • 句読点設定(ぶら下げる句読点の文字) 、。

 

なお、本記事中の作例画像の本文フォントはすべてヒラギノ明朝ProN W3(アプリ内フォント)を使用しています。

 

 

 余白の仕様については作者さんのツイートも要参照。

 

 

『縦式』を使ったおすすめ本文レイアウト

ここからは筆者が思う「たぶんだいたい失敗しない」おすすめ本文レイアウトを紹介します。

作例には、江戸川乱歩
地の文が多く改行が少ない『屋根裏の散歩者』、
改行や会話文の多い『悪魔の紋章』をお借りしています。

 

A5 / 2段組

本文9pt   26字×21行

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f:id:rokuhare:20190914232957p:plain江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』

 

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江戸川乱歩『悪魔の紋章』

26字×21行

本文フォントはA5同人誌で定番の9pt
地を詰めたいなら1~2mmくらい削っても。(そのぶん段間が広くなります)


ルビなどをよく使う、太めのフォントを使用している、改行が少ないなどで文字密度が高い文章にはとくにおすすめ。

 

読みやすいフォントサイズで、ジャンルや文体を問わず使えるレイアウトです。

 

 

本文8.5pt 27字×22行

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江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』

 

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 江戸川乱歩『悪魔の紋章』

 

27字×22行

本文フォントを8.5ptにし、なるべく詰めたレイアウト。
これも地を詰めたいなら1~2mmくらい削っても。
ダイアログのとおり、実際のノドは設定値より少し小さくなります。

 

会話文が多い、漢字が少ないなどの文章、または再録本におすすめ。
ノドを多くとっているので背幅20mmくらいの本でも余裕です。

 

 

本文8.5pt 28字×22行

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江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』

 

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江戸川乱歩『悪魔の紋章』

 

28字×22行

本文フォントを8.5ptに、さらに文字数を28字にして、地の余白を削って可能なかぎり詰めたレイアウト。

 

けっこうな密度になるので、改行や会話が多く、ルビなどがひかえめな文章、または再録本などに。


行間を5ptにする、またはノドと小口を2mmずつ削るなどすればもう1行入れられそう……ではありますが、可読性が確保できるかどうかは作風やフォントなどにもかなり左右されるので、実際に出力しつつ試してみてください。 

 

 

 

気をつけること

縦式は非常にすぐれたアプリですが、使う際に少し気をつけることがあります。

 

※ここから先は「ちょっと手間かけて、もっときれいに組みたい」という方に向けた記事になります。
だいぶこまかい話になるので「そこまで気にしないよ!」と思ったら読み飛ばしちゃってオッケーです!

 

 

禁則処理関係

連続した約物

説明より画像で見たほうが早いです。

以下は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』(新潮文庫版)より一部抜粋。

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(レイアウトは本文8.5ptの27×22を使用)

 

下段の中央あたりに注目。

 

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行頭に約物が来ているのがわかると思います。

これは行末に約物が連続していると発生します。

エディタによっては設定次第で自動的に字間を調整して行内におさめるなり次の行に数文字まとめて送るなりして処理されることが多いですが、縦式の場合は「字間を変えない」ことを重視しているようで、禁則処理を設定していても行頭に約物が来ることがあります。

 

 

 

親文字より長いルビ

先ほど挙げた、「字間を変えない」にも例外があります。

ルビの長さに応じた字間調整です。

 

こちらは江戸川乱歩の『覆面の舞踏者』。

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(レイアウトは本文8.5ptの27×22を使用)

 

下段に注目。

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徴収 の字間が、ほかの文字より若干ひろくあいていて、

行末に空白ができているのがわかるでしょうか。

ルビの長さが親文字を超えるとこうした処理がされることがあります。

 

この場合も、ひろげた字間分を同じ行内で回収・調整はされないため、行末に1字分に満たない余白ができてしまいます。

字間を変えないようにする目安としては、親文字1字に対してルビ2字まで。
親文字が1字のみで、前後にルビや傍点などがない場合はルビ3字まで。

 

らいう
雷雨 →字間そのまま

いなずま
稲妻 →字間そのまま

ライトニング
 閃 光 →親文字・前後の字間ひろがる

ひかり
  →字間そのまま

かみなり
   →前後の字間ひろがる

 

 

 

分離・分離禁止

分離・分割禁止*3というのは、ざっくり言うと「」「……」「――」などのようにセットで使われる字記号熟語のルビ欧文など、続けて読まないと意味の通らなくなる文字が改行でわかれてしまうのを禁止する処理のことです。

 


同じく江戸川乱歩の『覆面の舞踏者』より、先ほどの画像の上段から。

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4行目の行末に余白
原因は、5行目の「見給え」に振られたルビです。

複数の親文字にわたるルビ(グループルビ)は分割禁止処理されるので、グループルビ付きの単語が行内にすべて収まりきらないときは、次の行に単語まるごと送り込まれ、そのぶんの余白が行末にできてしまいます。 

 

ただし今回のケースの場合は、

 

 たま
 給え

 

のように、漢字ひとつごとにルビを振る(モノルビ)にすれば、問題なく改行できるはず。

 

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また、「……」を行末に入れた例がこちら。
2字セットで次の行に送られたかわりに、2行目の行末に1字分の余白ができています。

 

 

 

ぶら下げ処理していない約物

同じく江戸川乱歩の『覆面の舞踏者』の別のページ。

 

4~5行目に注目。

 

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これも、4行目の行末に余白ができています。

行末約物が連続していない場合でも、行頭にぶら下げ処理設定されていない約物が来るときは、禁則処理の基本である「行約物がいかないようにする」処理が働き、前の行から1字追い出してこういった表示になります。

 

 

 


対策


これらの対策としては以下のような方法があります。

  • 行頭1字残しは避ける
  • 長いルビ、改行をまたぐルビはなるべく避ける
  • ルビは極力モノルビを使う
  • 改行の前後では約物を連続で使わない 

 

設定で回避する方法は現状ないので、
ひとまずはエディタ設定1行文字数を出力設定と同じにして、
一段落ごとに確認・調整していくのがいいかと。

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エディタ設定。

1行文字数だけ出力設定と同じにしておけばOK。
フォントを同じにしておくのもおすすめ。

 

また、ぶら下げ処理設定していない約物問題については、「」『』()などの約物をぶら下げ処理することで解決させるという荒業もありますが、小説本文に使うのはなるべく避けたいところです。

 

 

フォント

ダッシュ――

これはフォントの仕様なので縦式の問題ではありませんが、アプリ内で使えるフォントなのでいちおう解説を。


フォントがヒラギノの場合、「――」(U+2015 HORIZONTAL BAR)がくっつきません。

 
くっつけたい場合は「——」(U+2014 EM DASHを使うか、
ユーザーフォント設定で、お手持ちのなかからくっつくフォントを各自インストールしてください。

 

 

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U+2014を使った例。ヒラギノでもくっついています。

 

 

ただし、U+2014を使ったダッシュセンターから若干ずれることがあります。*4

上の画像を見て「左にずれてる…?」と気になってしまった人は、U+2015がくっつくフォントを使ってください。

 

 

ダッシュ(ダーシ)の仕様についてはこちらが参考になります。

works014.hatenablog.com

 

なお、本記事内の組み見本は、すべて青空文庫原文ママ(U+2015)です。

 

 

 

※2019.10.19追記

今後、縦式の出力設定オプションダッシュをつなげる」が追加される予定のようです。

 

 

 1)ダッシュをつなげる
現在ダッシュを使う場合は、EM DASH(U+2014)かHORIZONTAL BAR(U+2015)の文字のどちらかが使われています。
このオプションではどちらの文字でもPDF作成時にダッシュをつなげる処理を行います。
またEM DASHが中心の位置に表示されるように調整も行います。

 

つまり、実装後は先に挙げたダッシュ問題がこれひとつで解決できます。

 

なお追加機能を使うにはApp内課金でアップグレード2.0(370円)が必要になります。

実装まで楽しみに待ちましょう!

 

 

 

 

 おしまい


以上です。

 

文字をきれいに組めるソフトはたくさんありますが、ここまで簡単な設定で、誰でも失敗なくきれいな小説本文が組めるのは、おそらく縦式だけではないでしょうか。

私事で恐縮ですが、ちょうど縦式に興味を持ちはじめた時期、身内に「どんな本にでも使えるテンプレ作って」と言われてしばしInDesignをいじっていたのですが、なんとなく縦式をDLして数分いじり、気づいたときには身内に縦式のURLと設定画面を送りつけていました。


リリースから約1年、今ではiOSの日本語用テキストエディタの決定版と言っても過言ではないアプリだと思います。

 

先述した禁則処理やルビなどの問題もあるため注意は必要ですが、それでも声を大にして言いたい。

縦式はすごいぞ。

 

まだまだ使いこんでいくつもりなので、引き続き記事の更新もしていきたいです。

 
もし記事内の問題等を見つけた場合、当方のツイッターあたりからそっと教えていただけるとほんとうに助かります!*5


これを読んでくださったあなたの執筆ライフに幸あれ。
そして1冊でも多くの小説同人誌がこの世に出ますように!

 

*1:正式名称不明なのでここでは仮に「エディタ設定」としています。

*2:ただし8.5ptの場合、印刷所によってはかすれます。W2やLなどの細いウェイトは要注意!

*3:分離と分割は厳密には違うものなのですが、ここではまとめて「分割・分離禁止」と表記します。

*4:フォントによってずれ方はことなります。

*5:この記事は個人の感想です。記事の内容・不備に関する質問は当方に、けしてアプリ作者さんなどに質問なさらぬようお願いします。